妄想性障害
妄想性障害について
妄想性障害は、中心となる一つ(稀に二つ以上)の誤った思いこみがあり、それが少なくとも1カ月以上持続するのが特徴です。
・妄想は奇異ではない傾向があるほ、正常でも起こりうる状況に関係しています。
・この障害は妄想性パーソナリティ障害の人に発現することがあります。
・妄想性障害は,統合失調症の他の症状を有さず、妄想が存在するという点で統合失調症と区別されます。
・統合失調症とは異なり、妄想性障害は比較的まれです。頻度は統合失調症の数十分の一です。心理社会的機能は統合失調症の場合ほど損なわれず、通常は妄想的信念から直接生じるとされています。高齢患者に妄想性障害が起こった場合、軽度の認知症と併存することがあります。
・診断は、あらかじめ他の疑われる原因を除外し、主に既往歴に基づいて行います。
・通常、患者は社会的機能を果たすことができる状態であり、仕事をもっています。
一般に、妄想性障害は成人期中期(40才ごろ)から老年期にかけて発症します。妄想は奇異な内容のものではなく、「後をつけられている」「毒を盛られる」「感染させられる」「遠くから誰かに愛されている」「配偶者や恋人に裏切られる」など、実生活でも起こり得るような状況を含んでいます。統合失調症にあるような「火星人が殺しに来る」「壁の中に俺を見張っている人がいる」のように現実離れした妄想はありません。妄想性障害の亜型もいくつか知られています。以下に類型を記します。
色情型:誰かが自分に心を寄せていると思いこみます。電話、手紙、さらには監視やストーカー行為などで妄想の対象と接触を図ろうとします。妄想から出た行動が法に抵触することもあります。ただし患者はこのような妄想を秘密にしておく傾向があります。
誇大型:自分には偉大な才能がある、あるいは重要な発見をしたなどと思いこみます。カルト集団の指導者となることもあります。
嫉妬型:配偶者または恋人が浮気をしていると信じこみます。あいまいな証拠から誤った推測をしてそのように思いこみます。このような状況下では、傷害事件が起こる危険があります。シェイクスピアのオセロが似たような症状であったため「オセロ症候群」とも言われます。
被害型:統計学的には最も多いタイプです。自分に対し陰謀が企てられている、見張られている、中傷されている、嫌がらせをされているなどと思いこみます。裁判所など行政機関に訴えて、繰り返し正当性を主張しようとします(好訴妄想)。まれに、想像上の迫害に報復しようとして、暴力的な手段に訴えることがあります。
身体型:体に不自由があるとか体臭がするなど、体の機能や特性にとらわれます。妄想が、寄生虫感染といった想像上の身体疾患の形を取る場合もあります。実は私が関わった患者で一番多いのは被害型ではなくこのタイプです。
妄想性障害の症状
妄想性障害は既存の妄想性パーソナリティ障害に起因することがあります(パーソナリティ障害: A群:奇妙で風変わりな行動)。妄想性パーソナリティ障害の人は、成人期初期に始まり、他者の行動や動機に対して全般的な不信や疑念を抱きます。発症初期には、利用されていると感じる、友人の誠実さや信頼に執着する、悪意のない言葉や出来事に自己への脅迫的な意味を読み取る、うらみを抱き続ける、軽視されていると感じるとすぐに反応する、などの症状がみられます。
妄想性障害の診断
妄想を伴うような特定の状況がほかにないことが確認されれば、本人の病歴に基づいて妄想性障害の診断が下されます。医師は患者の危険性の度合いを評価する必要があります。特に、どの程度まで自己の妄想に基づいて行動するつもりなのかを評価することが重要です。
妄想性障害の予後(経過の見通し)と治療
通常、妄想性障害によって重度の障害が引き起こされることはありません。ただし、次第に妄想に深くのめり込むようになることがあります。たいていの場合、仕事を続けることができます。
医師と患者の良好な関係は治療のために有用です。危険な患者であると判断される場合には、入院が必要となります。
抗精神病薬の使用は一般的ではありませんが、場合によっては症状を抑える効果があります。抗精神病薬の使用は統合失調症の治療に準じます。妄想にとらわれた患者の関心を、もっと建設的で満足感の得られる領域へと向けることが長期治療の目標ですが、達成にはしばしば困難を伴います。
妄想性障害の薬物療法
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