認知行動療法

認知行動療法

当初はうつ病に対する治療法として確立され、患者さまの苦痛の原因となっている歪んだ思考や考え方、感じ方(認知)を発見し、それを検証して修正を行っていくことで治療を行うものです。 認知行動療法は認知療法と行動療法の二つの治療を組み合わせたものです。
認知療法とは、考え方に働きかける治療法です。思考のパターンが極端に悲観的・否定的になっている場合などに、その修正を図ることができます。
行動療法は、文字どおり行動面に働きかける治療法です。生活には必要ない不合理な行動がくせのようになり、生活上の支障となっているとき、その習慣を変えることに用いられています。 最近になって、この治療法が行われる疾患は飛躍的に増加しています。 例えば、うつ病などの気分障害、双極性障害(躁うつ病)、様々な恐怖症、社交不安障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、薬物(麻薬・覚せい剤・シンナーなど)乱用やアルコール依存症、強迫性障害、発達障害、摂食障害、パーソナリティ障害など、非常に多岐に渡っています。 イギリスやアメリカなどの国々では、認知行動療法がうつ病・不安障害治療の第一選択となっています。
認知行動療法と薬物療法とを組み合わせた治療法では、単体を用いる治療法に比べて非常に高い治療効果が得られることが科学的に立証されています。 現段階ではこの認知行動療法を受けることができる精神科クリニックは非常に少なく、日本ではこの治療法が普及しているとは言えません。 当院でも時間的にも人材的にも認知行動療法を完全に行うことはできません。しかし簡易的な認知行動療法でも患者さまをかなり楽な状態に導くことができますのでご相談下さい。
追記:
本格的な認知行動療法をご希望の方は当院では対応できかねますのでご了承ください。
また認知行動療法だけで治療することも原則難しいと考えてます。内服薬の補助としてとお考えください。

認知療法

人間の認知(思考・考え方・感じ方)というのは千差万別であり、同じ出来事が起こったとしても、人によって認知の仕方(感じ方)は様々です。例えば、試験で61点を取ったときAさんは「あと1点で落第するところだった」と認知し恐怖心が沸いてきました。しかしBさんは「自分はラッキーだ」と認知し得をした気分になりました。このように全く同じ出来事に対して、感じ方(認知)は全く違う可能性があります。 また、女性に振られたときにAさんは「彼女の希望する男になれなかった自分が悪い」と認知し自分に怒りを覚えます。しかしBさんは「自分を認めてくれない彼女が悪い」と認知し彼女に怒りを覚えます。これも同じ出来事に対して認知が異なる例です。このように人間は多くの考え方・感じ方・捉え方(認知)の中から一つの考え方・感じ方(認知)を選択しているにすぎません。同じ出来事の認知が自分にとって苦痛を感じたり不都合であったりする場合もあれば幸福や好都合となる場合もあるということです。 それならば幸福や好都合となる認知の仕方へ変えていく(現実は変わりません)ほうが精神衛生的に健全です。その好都合なほうに認知を変えていく作業が認知行動療法です。
人間というのは心理的苦痛を感じているときに思考が柔軟性を欠き、認知が歪んだものとなる傾向にあります。この認知の歪みにはいくつかのパターンがあります。二者択一思考、結論の飛躍、読心術、レッテル貼り、感情的理由づけなどです。 まずはこの歪みのパターンを自覚してもらいます。そして、自身の考えが歪みによって不健全な方向に向かっていることを認識してもらいます。
二者択一思考
状況を全か無で考ええしまうことです。例えば、有名大学に合格できれば人生は約束されていて不合格なら人生が終わると考えたりします。有名大学に受かった人の中に不幸になる人がいるとは考えません。有名大学に不合格であっても幸せになる人が居るとは考えません。
結論の飛躍
何事も性急に判断してしまうことです。例えば会社に入社して2、3日でこの仕事は自分に適性がないと思い込み退職することや、認知行動療法を受けても初回の治療だけでこの治療では自分は治らないと思い込むことや、結婚して2、3ヶ月も経たないうちにこの人とはやっていけないと離婚を考えたりすることです。
読心術
証拠もなく他者の考えを思い描くことです。例えば会社の上司が自分に仕事をたくさん命じるのは上司に嫌われているからだ思い込んだり(上司が自分を頼りにしているとは考えられない)、彼女の笑顔が少なかったので、もう嫌われてしまったと思い込む(彼女が体調不良であったとか、たまたまその時機嫌が悪かっただけだとは考えられない)などです。
レッテル貼り
自分自身にレッテルを貼ってしまうことです。例えば、大学入試に失敗したということは自分は落ちこぼれだとレッテルを貼ってしまう(来年再挑戦すればよいとは考えられない)、結婚できていないということは自分は負け組みだとレッテルを貼ってしまう(結婚していなくても幸せな人はいるとは考えない)、給料が安いということで自分は価値のない人間だとレッテルを貼ってしまう(給料だけで人間の価値が決まるわけではないとは思えない)、などです。
感情的理由づけ
自分の直感を事実だと決め込むことです。例えば自分は今の仕事が向いていないと感じる、だからそれは事実に違いないと決め付けたり(他人からの評価を考慮に入れない)、自分は彼に嫌われていると感じる、だからそれは事実に違いないと決め付けたり(彼に確認したわけでもないのにそう決め付けてしまう)などです。

行動療法

行動療法とは心身の障害や行動の異常は過去の謝った「条件付け」が原因でこれを正しい方向に「条件付け」しなおせばよいという考えです。ところでこの「条件付け」とは何か?と思われるでしょうが有名なのは「パブロフの犬の実験」です。犬にベルの音を聞かせてからエサを与えると、やがて犬はベルの音を聞くだけでえさ与えなくても唾液をだすようになります。つまり「ベルがなる」という条件が「唾液を出す」という無意識の行動に結びついてます。こういう結び付けを条件付けと言います。他の精神療法が患者の内面に働きかけようとするのに対して、行動療法は外面から「患者を条件付けしなおす」というかなり積極的な療法です。
行動療法は、不適応に陥っている行動の治療改善を図るのが目的です。異常行動そのものが治療の対象になります。たとえば、パニック障害にみられる乗り物恐怖症のような場合、乗り物に乗れないという行動そのものを問題とし、実際に乗れるように指導していくという手続きをとります。「一人で電車に乗ると不安発作を起こしてしまう」という患者さまがいたとすると、この患者さまにとっては、外出することに一定の制限を抱えることになります。この場合、問題は「電車に乗ると不安発作を起こしてしまう」という行動パターンそのものにあります。脳はこの時点で「電車に乗る」と「不安発作が起こる」を条件反射として学習してしまっています。この行動パターンを修正し変容させるための手法として、まず「知人と二人で電車に乗ってみる」→「電車に乗らず改札まで一人で行ってみる」→「電車に乗らず一人でホームに立ってみる」→「人込みの少ない時間に一区間だけ電車に乗ってみる」→「人込みの少ない時間に30分程度の距離を一人で電車に乗ってみる」→「一人で電車に乗っても大丈夫な状態になり、これを繰り返していく」といったように、条件を段階的に変えていくことによって、行動を変化させ、問題を解決していきます。このようにして「電車に乗る」と「不安発作が起こらない」という条件付けに修正します。
行動療法の考え方
自分の直感を事実だと決め込むことです。例えば自分は今の仕事が向いていないと感じる、だからそれは事実に違いないと決め付けたり(他人からの評価を考慮に入れない)、自分は彼に嫌われていると感じる、だからそれは事実に違いないと決め付けたり(彼に確認したわけでもないのにそう決め付けてしまう)などです。
1. 人間の行動は、大部分が学習によって獲得されたとみなす。他の心理療法と比較して、客観性と普遍性において優れている。
2. 神経症においてさえ、何らかの理由で不適応的に学習された習慣に過ぎないものであり、その習得に用いられた同じ原理を組み合わせれば、それは解除できる。
3. 一般に他の心理療法と比較して、治療に要する時間は短く、治療の経過を客観的に理解することができる。
行動療法の特徴
1. 行動理論を基礎原理とする。
2. 治療の目標を明確にし、客観的測定や制御が可能な行動のみを治療の対象とする。
3. 症状を、不適応行動の学習あるいは適応行動の未学習としてとらえる。
4. 治療の焦点を過去ではなく、今現在にあてる。
5. 治療の最終目標を行動のセルフコントロールとする。
以上、述べてきたように、認知療法と行動療法は表裏一体の関係にあります。認知と行動は密接に関係しているため、認知が変われば行動が変わり、行動が変われば認知も変わってきます。治療の効果も、認知面と行動面の両方に出ます。この二つの治療法を統合させたのが、認知行動療法です。